Q:引っ越し後に「騒音トラブル」がありました。どうすれば?
結論 まず証拠化──日時・場所・音の種類を「騒音日誌」に残し、スマホで録音・録画。可能なら“騒音計(スマホアプリは参考程度)”でdB値も記録。 管理会社・管理組合(分譲)へ“書面”で通知──電話だけはNG。メールや書面で「いつ・どんな音が・どのくらいの頻度で・生活にどう影響しているか」を具体的に。 購入後なら“契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)”や“告知義務違反(心理的瑕疵・環境瑕疵)”の可能性を精査。 売主・仲介が知っていた/知り得たのに説明がなかった場合、減額・損害賠償・解除が視野。 騒音トラブルを“法的に”整理する視点 民法709条(不法行為) : 故意・過失により権利・利益を侵害した者は賠償責任を負う。 受忍限度論 : 社会生活上、ある程度の生活音は“我慢すべき範囲(受忍限度)”とされます。これを超える“異常な騒音”かどうかがカギ。 契約不適合責任(民法改正・2020年4月施行): 売買契約の内容(期待される静穏な居住環境等)と異なる重大な不適合があり、かつ売主が知っていた/告知していない場合、修補・減額・損害賠償・解除が可能。 管理規約・使用細則(分譲マンション): 楽器演奏時間・DIY禁止・夜間騒音の禁止など、規約違反は管理組合の是正対象。 自治体の騒音規制法・条例(2025年7月時点): “基準dB”は自治体により異なります。具体値は必ず各自治体の最新基準を確認してください。 まずやること:証拠の“質と量”を確保する 1. 騒音日誌(ログ)を付ける 日時(○月○日 23:40〜24:10) 音の種類(ドスンという床衝撃音/金属音/大声・テレビの低音など) 継続時間・回数(1時間に10回以上 等) 体調・生活への影響(睡眠障害、在宅勤務に支障 等) 可能であればdB値(※スマホアプリは“参考値”。真正性担保のため民生用騒音計の利用がベター) 2. 録音・録画 声や音のパターン、時間帯が分かるように記録。 連日続くようなら、数週間分の記録が交渉時の説得力を高めます。 3. 第三者証拠 管理会社・管理組合の立ち会い記録 近隣住民の陳述(同様の被害が出ていれば“共同戦線”が有効) 誰に/どう伝える?(分譲・賃貸・戸建て別) 分譲マンション(購入・所有) 管理会社/管理組合へ“書面”で正式通報 騒音日誌・録音データの有無、規約条項(○条○項違反)を明記。 管理会社から全戸へ注意喚起(匿名) エントランス掲示・ポスティング等。 特定住戸が判明した場合の個別指導 管理組合名義での是正勧告書。 是正されない場合 理事会決議→弁護士同席の上、内容証明郵便で差止め・損害賠償を請求 戸建て(購入・単独所有) 直接の近隣交渉は避け、自治体の生活環境課/警察(110番ではなく相談窓口)/弁護士・調停を通じて進めるのが安全。 長期化が予想される場合は、防音工事等の自助努力と並行して損害賠償・差止請求を検討。 「購入後」なら“契約不適合責任/告知義務違反”も検討 こんな場合は要精査となります。 売主・仲介が近隣の継続的な騒音トラブルの存在を知っていた/苦情履歴があったのに告知しなかった 管理組合の議事録に複数回、特定住戸への注意喚起が記録されていた 過去に裁判・調停に至ったトラブルの履歴があった 買主側が取り得る主張(ケースバイケース) 代金減額請求 損害賠償請求(引っ越し費用、ホテル宿泊費、仕事への支障 等) 契約解除(“通常の居住に堪えない重大な不適合”が立証できる場合) ※いずれも通知・請求の期限(原則:不適合を知ってから1年以内/民法566条)に注意。具体的な時効・除斥期間は個別検討が必要です。 エスカレーションの実務フロー(テンプレ付き) 1)初回通知(管理会社・大家・管理組合宛て) 事実関係(日時・内容・影響) 添付資料(騒音日誌、録音データのログ) 望む対応(全体周知、現地確認、規約に基づく是正勧告 等) 2)改善なき場合の再通知(期限を切る) 「○月○日までに改善が見られない場合、内容証明郵便・調停申立てを検討します」 3)内容証明郵便(弁護士関与推奨) 差止請求の意思表示 逸失利益・慰謝料等の損害額内訳(仮) 回復措置/将来の騒音防止策の提示要求 4)民事調停・ADR・訴訟 調停:当事者同士での話し合いを裁判所が仲介 ADR:マンション管理・建築紛争等、専門特化型の第三者機関での和解手続き 訴訟:差止め・損害賠償(民法709条 等) 防音・自衛策(“法的手続き”と並行して実施) 床にラグ・コルクマット・防振ゴムを敷く(上下階双方のストレスを軽減) 窓の気密性改善(内窓・防音ガラス) 防音カーテンの導入 寝室の配置変更(騒音源から最も遠い部屋へ) 睡眠の質に直結する場合は、耳栓やホワイトノイズ等の応急対策も併用 テライズホームができること(専門性の訴求) 管理規約・議事録の精査と“規約違反”の可視化 売買契約書・重要事項説明書のレビュー(契約不適合責任/告知義務違反の当否を整理) 自治体の騒音基準・条例のリサーチ同行(2025年7月時点) 弁護士・ADR機関との連携、調停申立書の作成支援 よくある質問(Q&A) Q1. スマホの騒音計アプリの数値は法的に有効? A. 参考値としては有効ですが、厳密な証拠性は弱いです。 必要に応じて簡易型の騒音計(JIS規格対応)を用意し、第三者立会いで計測するのがベター。 Q2. 相手に直接言いに行ってもいい? A. 感情的対立を招きやすく、長期化・悪質化のリスクも。まずは管理会社・管理組合・大家経由を推奨します。 Q3. 買ってすぐに騒音が発覚。解除できる? A. 売主・仲介がトラブルの存在を知っていた/知り得たのに告知しなかったなどの事情があれば、契約不適合責任・説明義務違反を根拠に解除・減額が検討可能です。 事実関係の裏取り(議事録・苦情履歴)が鍵。 Q4. どの程度の音なら“受忍限度超え”ですか? A. 一律の線引きは困難です。時間帯(深夜)、頻度、継続性、音の性質(低周波、衝撃音)、生活への影響度(睡眠障害 等)、規約違反の有無等を総合考慮します。 まとめ:手順を踏めば“戦略的に解決”できます 証拠化 → 書面通知 → 規約に基づく是正 → 法的手段という“階段”を冷静に上ることが大切。 購入後の騒音は、契約不適合責任・告知義務違反の可能性を常に検討する。 受忍限度論・自治体基準・管理規約など、複数のルールを重ねて主張を組み立てると有利に進みます。